認められた者しか入る事の出来ない、秘密の花園。罪の色を纏いし赤が咲き誇る庭の中にこの国の、女王の称号を持つ女が居た。庭の中に備え付けられたブランコに腰掛け、小さく揺らした。動きを止めていた空間が動き始めるように、小さな振動は風を生む。彼女の姿は、女王と云う身分を隠す為に覆われてはいたが、整った顔立ちは一目見たものを忘れさせはしないだろう。きつい印象を与えるが、まさにその通りといった所で、首と血に狂った女王陛下だとか様々な噂が回っている程に、彼女は恐ろしい。
しかし、今こうしてブランコを揺らしている表情は実に穏やかで優しげで―哀しげな。敵の領地であるこの庭が、彼女の自室の次に彼女を癒してくれる場所であり、彼女が好む場所なのだ。ブランコを漕ぎながら天を見やる彼女は、空を駆ける事を夢見る子供と同じ位、澄んでいる。
キィ、キィ、ブランコが天に上がる音だけが庭に響き渡る中、足音が場を乱した。彼女は眉根を寄せながらも地面に足を何度か擦らせ、スピードを徐々に失わせた。やがて音が止めば、彼女が止める間に辿り着いた、敵地の領主の顔。黒い癖のある髪に整った顔は彼女に似通って美しい。ブランコに腰を掛ける彼女と、それを見守る彼。何も知らない者が見たら、甘い恋人通しの一時かと思ったかも知れないが二人には血の繋がりがある。
敵であれば争う国だがこの中で争うような事は決してしない。この美しき庭を愛する二人は壊せない。穏やかな時を過ごす為にも守らねばならぬ事であったし、この時は深く閉ざされた思い出を開ける事が出来るのだから。
彼女の白い手が彼を招いた。不服そうに眉を寄せながらも彼は彼女へと近付いた。歪んだように見せても、やはりその本質の美しさまでは消える事が無い。
「御前は、ほんに美しいの。愚弟なれど其ればかりは認めねばならぬ」
彼女の赤く塗られた指が彼の頬に触れる。満足そうに、唇の端を上げる様は艶がありそれでいて悪がある。逆らう事も無く、彼は指の動きを辿る。慈しむように哀れむように。
薔薇が咲き誇る庭園、罪の赤を纏いし二人は最後の遊戯に明け暮れるのです。 |