赤に囲まれた庭の中。テーブルを挟んで向かい合う男女。揃えられた物は全て極上の物である事が遠目からでも伝わる位に名のあるもので、そんな物に囲まれた二人もこの国で知らぬ者はいない程、名の知られた二人だった。整った顔に均整の取れて体も人目を惹きつけるがその残虐な性質も人々を震え上がらせる。噂には常に血と色が付き物の二人。
カップが触れ合う音、次いでカップに紅茶が注がれる音。優しい香りが鼻を擽れば二人揃って同じように恍惚とした表情を浮かべる。幸せを全身に受けているような表情で微笑み合う男女、傍目からは恋人だと思わせてしまうだろう。喉を通り、体を巡る琥珀色。彼の眼線は壁のような赤に、彼女の眼には黒と白の彼。変わらぬ顔付きのまま美しい物を愛でるようにカップの淵越しに彼女は彼を見つめた。刺す様な熱く、痛い視線に気付かない筈は無いだろうに彼は気付かぬ振りを続け、未だ赤に視線を置いていた。僅かに眉間に皺が寄っているも、常日頃彼を知っている人でも知っていない位に小さな動作。しかし彼の顔を捉えて離さない彼女にはそんな細かな事も分かってしまうのかにやりと悪党のような笑みを浮かべた。
「ふふ、御前は可愛いの」
「……誰の事を言っているんだ?」
今度は明らかに怪訝そうな表情で耳に障る音を立ててカップを置いた。続くように彼女の持つカップの小さな音。悪戯心が溢れる彼女の笑みはなんとも美しくそして可愛らしい。カップの中に残る琥珀に指を付ける。何をするのかとそのまま目で追えば後は一瞬の出来事。纏わり着いた琥珀が一瞬の後に唇に着く。薄っすら赤い唇に赤の上の琥珀が吸い付く。歪んだ顔が一度に間の抜けた顔に変わる。一瞬で空気も変わるほどの変化。
其れはなんとも周りから見たら奇妙な光景でしかも美しい光景だろう。呆然と間抜けな表情を浮かべても彼は美しく作られていて、どこか形のように見えた。そして声を上げて笑う彼女はいつもより幼く見えるもそれでも下品な様子などは微塵も無く。笑みは大輪の花が咲いたよう。
「勿論御前だよ、ブラッド。他に誰に言うと?」
「気色が悪い。私が可愛いなど誰が思うか」
琥珀が着いた唇を拭うように、同時に赤を舐めるように舌が走る。途端に花が枯れた様に…燃えたような彼女に仕返しとばかりに笑みを浮かべる彼。形勢とはいとも容易く変わるもの。
「私に言わせてみれば、ビバルディ。気高き女王陛下の方が余程可愛らしく見える」
「わらわに可愛いなどと云う愚か者は御前しか居らぬよ」
|