破壊の音が空間の中に響き、白い絨毯にブラウンの染みが広がっていく。控えめだが決して地味では無いカップや皿は落とされればいとも簡単に割れてしまい、白い破片があちらこちらに飛び散る。食欲をそそるお菓子の数々も見るも無残な姿に変わって、床に落ちた。穏やかな光を放つ太陽はあっと云う間に落ち、闇が世界を包むよう。

嗚呼、やってしまった。冷静になった思考が場の汚れように溜息を吐く。表情には何一つ表さないまま、ただ目だけは冷静に周囲を見る。それから向かいの人物を見てまた心の中でのみ大きな溜息を吐いた。何もかも君がいけないと、罵りながら。

茶色の髪はふわりと宙を舞う。常時の雰囲気となんら変わりの無い笑みを浮かべながらも、手に持ったナイフはきらりと光る。向かいに腰掛けていたアメリカは起こった出来事があまりにも予想出来ない物だったからか呆然とした表情を浮かべていたものの、場を和ませるように笑みを浮かべた。


「どうしたんだい?突然、君がこんな事をするなんて。…何か気に障ったのかい?」


何を言うのか、嘲笑にも似た笑みを浴びせる。今まで一度もアメリカが見た事の無いような、暗く恐い笑みを。ナイフを口に添えれば背を舌で舐める。濡れたナイフの背は変わらぬ光を浴びているのに、先ほどよりもその光には妖しさが増しているように見えた。
幾つもだ。気に入らない事なんて、それこそ山程もあるに決まっている。世界にヒーローだと名乗っているこの国が心を踏みにじらない時なんてあるのだろうか。血を涙を流させない時があっただろうか、少なくともいつだって、己は傷を付けられている。自覚がないのも罪。それに甘んじていたのは、如何してだかもちっとも分かっちゃいない。だからもう、こんな存在で居る必要は無いだろう。

大きな音を立ててテーブルに手を着けば、さすがにアメリカも危険を感じたのか立ち上がろうとする。しかし其れよりも早くカナダの手は伸び、アメリカの首を掴んでソファの背に押し付けた。机の上に体を預ければ残っていた物も派手な音を立てて飛び散る。


「全て、かな?全てがずっと気に喰わなかったんだよ」

呟くような小さな声。近くに居るアメリカには聞こえていたのか目を大きくして呆然とカナダを見つめる。首にはだんだんと赤が広がり、ソファが軋む音と腕に籠められる力が重なる。柔らかな笑みを浮かべたまま、ナイフを首に当てる。表情からは殺意も何も感じられないのに、その行動はアメリカの存在を滅ぼそうとする行為であることは確実だった。けれども彼も幾つもの恐怖を味わってきた経験はあるのか、怯える事も無くカナダを見つめていた。無知なままで居る事は彼らには許されなかった。瞳が、色付く。

額にゆっくりと唇が落とされる。







反逆の狼煙が上がる













(080228)