何で、見つけてしまったんだろう。何で知ってしまったんだろう。もう覚えていないけど、記憶から消してしまえれば良かったのに。古い本だったか。白い紙だったか。自分で見つけたのだけでは無いのは分かる。老人か、若者か。誰かに手渡されてんだ。それはきっと彼を憎んで彼を苦しめようとする誰かの陰謀だったんだろう。分かっていた分かっていたんだ。けれど事実は僕を動かした、踊らされてやろうと思った。心の中にナイフを銃を用意して、安らぎの場所を戦場にしてやろうと。
「返して、それは、僕のだ」
返して。もう一度そう云えば彼の表情は強張って、其れから小さく首を振って、蚊の鳴くような音で嫌だと言った。首に触れた手は彼の白い首を思い切り掴んで、締め付けている。
彼にとっては非常事態、僕にこんな事をされるなんて思ってもいなかったんだろう。いつだって機会が無かっただけで僕は取り返したかったんだ、ずっと。機会を待っていたんだよ。こんな風に僕に全てをくれて、委ねてくれるように取り繕って立ち回って。それ相応の苦労はあったけれども、僕に懐いて心を許すようになる様はなかなかに楽しかった。けれど其れももう、終わりだよ。
甘い甘い夜で終わるなんて、そんな甘い音を考えてちゃいけないよ。知っている筈なのに、分かっていた筈だろう。ベットのスプリングは先程のような優しい音は立てなかった。彼がもがく度に軋む。
「ねぇ、いいだろう。ずっとずっと欲しかったんだよ。それは間違って君の所にあるだけで、本当は僕の物なんだ」
いつものように優しげに、微笑む事を心がけて笑ってみたけれど彼は笑ってくれない。僕の所為じゃないなんて言い訳はしたりしない。君の運が良くて、僕の運が悪かった。ただそれだけの事。だから僕は捻じ曲げられた運命を、来たんだよ。
彼の足が何度もベットを叩く。けれど其れは虚しくも音を立てるばかりで僕の行動にはなんの被害も無かった。けれども耳障りな音には違い無かったので首を握る片手を離せば何も纏わない腹に拳を落とした。呻き声とそれから咳き込む声。止めるように首に手を掛けて再び力を籠める。だってこんな素敵な場面に、不要な音はいらないだろう。だからそんな風に、あまりに哀しそうに此方を見るのは止めて欲しいと思った。そんな事をしたら離してしまいたくなるだろう。君を奪って、僕は僕を手に入れたいというのに。
彼の顔を見たら手が弛みそうになって、それで嗚呼、気が付いた。けど気付いてはいけなかったので、蓋を閉める事にした。彼はとてもずるい。運命に愛されて、幸せそうな顔してさ。その上貪欲で何もかも欲しがる。何もかも壊して手に入れようとする。ほら、酷い人だろう。そんな彼にこの場所は相応しくないんだ。だから、もう少し僕に力を下さい。彼の顔に落ちる涙なんて、
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