城内の壁に穴が開いた。銃弾は壁を貫通した所で力尽きたのか地面に転がり落ちた。首を横に逸らす最小限の動きで銃弾を避けた男は己に向かって撃たれたにも関わらず慌てる様子も無かった。一方彼に銃を向ける男は不機嫌そうに舌打ちをし、再び相手に銃口を合わせた。何度か音が鳴り響くも、男の呻き声が聞こえる事も無く、弾は床に落ちていく数が増えるばかりだった。室内に間を空ける事無く襲撃してくる弾に、もう何人かのメイドや兵士が当たった事か。女王陛下の茶会の準備をしていた彼女達は己の上司によって命を次々と奪われていったのだ。勿論撃った本人が其れを知る筈も無い、男はただ、一向に自分の弾が当たらない事に不満気だった。

(言ったら言った分だけ帰ってくるんだからなぁ、面白い人だ)


「どうして避けるんです?さっさと死にたいんでしょう?というか死んでください」

「あははっ、嫌だなぁペーターさん」



銃弾を避けながらも青空がよく似合う笑みを浮かべて男は答えた。銃弾が来るのが僅かに止んだ瞬間、一気に距離を詰め軽く手を叩けば銃は鈍い音を立てて地面に落とされた。咄嗟に身を引くも男の動きの方が早く、逃げるより先に手を掴まれてしまう。笑顔からは想像も付かない程の力で捕らえられた。



「本当は俺の事大好きなのになぁ。ま、そんな所が可愛いんだけどさ」



反対の手が彼の鳩尾に重く入った。予測していない動きだったのか避けられずくらってしまえば、自然相手の手を掴んでいた手も緩んだのかするり、と抜けてしまった。落ちた銃を拾おうともせず一刻も早く彼から離れてしまいたいのか、目をくれる事も無い。彼の方は離れていく背中を見つめてはいるものの追い駆けずに地面に座り込み、そして背中を預けた。目の前に広がる紅き空。

拳が当たった場所はとてもとても痛くなくて、とてもとても痛くて。あんな弱い力で手を離す訳も無いのに、何故だか手が離れてしまった。如何してかは、判らないけれど。ただ其れが物凄く腹立たしい事だけは確かだった。あんな兎なんかに、遅れを取る、なんて。あんなのただの少しばかり面白くて、そう面白いから声を掛けてしまうだけに過ぎないのだ。なのに、何故か。

(暇つぶしに過ぎないんだけどなぁ)

手を伸ばせば落とされた銃へと当たり、其れを掴んだ。


そして、一発。






(070503)