「行くんだ」

狭間の空間に紅き騎士の声が響きわたる。何処まであるのか分からないその空間に、彼の声は何処までも吸い込まれていく。先を行く白兎は先程から何度も何度も何度も何度も、繰り返されてきた質問に答えた事はない。しかしその時、彼は立ち止まる。その表情は邪魔者を見るようであり…正しく言えば紅き騎士は彼にとって邪魔者以外の何者でも無かった。何を考えて、行動しているのかが読めない人物に後を付けられていれば誰しも苛々するだろう。まさに彼はそんな気持ちで騎士に向かった。

(そこで終わるとは知らずに)



「ええ!勿論行きますよ。アリスの為なら、僕はどこへだって行くんです。彼女の事、愛してますから」



苛々しながらも幸福に満たされたような表情をして語る。その表情は今から会いに行く少女を想って夢見て愛して。恍惚とした表情で知らない少女の事で胸を躍らせる。今まで見たことがないその表情に笑みを崩してしまう。珍しい物を見れた幸せと同時に吐き気が襲う。こんな彼を、騎士は知らない。それは今まで誰にも見せた事が無い表情であるから仕方が無かったし、愛してるなんてそんな愛の言葉を言うような人物でも勿論無かった。驚いて、思わず、そう、思わずの、銃声。













血塗れの手を見つめながら紅い騎士は笑う。手元には銃。足元には真っ白だった、どこまでも白くあった白兎の姿。最後まで少女しか見る事無く想うことの無かった、紅き白兎。

「愛してるなんて気持ち悪い事言うからだぜ、ペーターさん」





一瞬を永遠に閉じ込めるなら今しかなかった



(070513/萌茶ログ)