「ああ、世界が消えていきますね」
ガラガラバラバラドロドロゴゴゴゴ、音を立てて壊れ行く世界を白く輝く髪を持った男が見つめていました。男の立つ回りは未だ無事で、綺麗な地面のまま。しかしその遥か数メートル先の地面には大きなひびが。その先は、建物も人も草木も、全ての物が平等に闇の中に呑まれて行くのです。弱者か強者だろうが、裕福か貧乏が、天才か馬鹿かなんて人間の中でだけの優劣も関係なく何一つ役に立つ事も無く、全てが等しく呑まれます。
闇、と云うのは正しく無いかも知れません。何故なら私も、崩れ落ちた先を見る事は出来ないから。崩れる地面の先を覗いて初めてそこが何色なのか、黒か白か赤か青か黄か緑か紫か桃か、はたまた七色か―知る事が出来るのです。落ちた時に生きていられるのか、保障もありませんけど。
男はにっこりと、そんな擬音がぴったり当て嵌まる笑みを浮かべて世界の端を眺めていました。後数刻で自分もこの世界から消えていくであろうと云うのに、彼の表情に悲痛さ等欠片もありませんでした。有る物はただ幸福を思い出させる笑み。ただ少しばかりの狂気が混じっておりますが。
「此れで全てが終わるじゃないか、良かった良かった。な、ぺーターさん」
もう一人の男が、彼の後方に立っておりました。男はまだ働くべき場所があった時に浮かべていた笑みとは違う、其れは一見変わらないように見えるのですが微妙に違う、笑みを浮かべていました。悲痛でも歓喜に満ちる風でも無く、ただ愉快で堪らない。そんな笑みを浮かべて、不意に声を上げて笑い出しました。
その間にも勿論崩壊は進んでいきます。寧ろ速度を増して、世界を破壊せんとしています。けれど二つの影は其れに怯える事も無く、動こうとはしません。笑顔のまま、大声で笑いながら、彼等はその時を待っています。いまか、いまかと。
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