「全く、良い度胸してますよねぇ…貴方も」
アリスと居る時には見せない、冷たい声色でこれまた冷たい微笑みを浮かべるペーター。その先にはこの城名物の迷子騎士、エースが居た。扉の閉まる重い音が部屋に響き、其れよりも遥かに重い空気が部屋を支配しているこの部屋は珍しい事にエースの部屋だ。自分の部屋に居る事すら珍しいのに、その上訪れた人物がこの城の宰相とあれば城は噂話で持ちきりになるだろう。…もっとも噂が流れる前に見聞きした人物はこの世の人では無くなっているのだろうが。しかしエースはこの上無く珍しい急な客人に驚く訳でも無く、ベットに腰を下ろしている。目線はこちらに歩み寄ってくるペーターでは無くベットに横たわり寝息を立てる少女、アリスに。扉の音など聞こえていなかったのかのように、ペーターには一瞥もくれない。其れでも彼がベットのすぐ近くまで来れば渋々といった様子で顔を上げ、困ったような表情を浮かべてみせる。
「いやいやそんな。ペーターさんの物を捕るなんてとんでもない。」
先程のペーターの言葉に今更ながらも返す。彼の方を見ながらもアリスの髪に指を絡めては感触を楽しむように指の間から髪を落としていく。そんな行動一つ一つにさえも彼は苛立っているようで繰り返される度に表情は険しいものへと変化している。眉間の皺が段々と深くなる。そしてまた、そんな彼が面白くて愉快で思わず笑い声を上げてしまいそうになる衝動を抑えて、いつもの表情を保つ。
「だったら僕の彼女に触らないで貰えますかね、エース君」
冷たく言い放つ彼の前で、一層笑みを深くすればアリスの髪が指と指の間を滑り、元の位置へと戻っていく。髪を撫でて再び髪を摘み、そして彼女のその髪に口付けを落とした。急激に冷える空気。しかし彼女は安らかな寝顔を崩すこと無く眠っていた。余程疲れているのか普段なら気付くであろう険悪な空気もお構いなしに眠っている。…まぁ此処で目を覚ましても面倒事に巻き込まれる事に違いないのだが。騎士の腕は彼女の顔の横に着かれ、其の部分だけが沈んだ。そして先程と同じように、彼女の頬に唇を落とす。
「ははっ、面白いなぁ。この子は俺の物だから、問題ないと思うんだけど」
彼に気付かれないように、そっと視線を移せば今までに見たことのない位の歪んだ表情(絶望のような羨望のような憎悪のような終焉の表情)
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