真っ赤な硝子玉が冷たい光を放ちながら見つめてくるのが堪らなく心地良かった。彼の一部分にも彼は触れる事を許されていなかったので、其の瞳に見つめられるだけでも彼の心は震えて、躍った。その体に触りたい接吻したい抱き締めたい抱きたい奪いたい壊したい、手に足に唇に首に腹に心に、その体の隅々までを、物にしたい。どんなに欲望が体中を駆け巡ろうとも彼はそんな物は微塵も出さずに、血塗れた玉座に腰掛けた男を見つめた。隠す必要なんて有りもしないと云うのに、其れを表す事が冒涜になるとでも云うように。実際に彼の欲望も邪心も全て、否全てと云うには彼の欲望はあまりにも深くて深すぎたのだから少しは、男でも理解していた。けれどそんな事を男は気にしていなかった。玉座に座った男には、そんな事はなんとも無い事柄だった。ただただ愛しそうに哀しそうに座っていた。そして冷たい瞳で彼を見つめていた。彼はそれで満足だった。男が座る玉座の血は、彼によって生み出された物。その事実だけでも彼の心は満たれていた。視線で男を冒涜しながらも、彼の表情は平静だ。


「ねぇ、どうです?俺が差し上げた玉座の心地は」

「……貴方によって雑菌が付いた事以外は何も。でも、そうですね。これでもう、邪魔するものは何も」


玉座の隣には小さな椅子が用意されていた。血のような赤い色の上等な布に高価な飾りが幾つも付いた椅子。その椅子の上に座るのは、蜂蜜色の少女だった。女王の椅子は、彼女の元に。男はくすくすと笑いながら、空を見上げた。血では無い、赤を。
赤と青で、狂いに狂った城を動かせるのは、男と彼の二人のみ。眠り姫と化した少女を愛しげに見つめる男に対して、彼は真っ赤に汚れた玉座を見つめていた。そして赤にも汚れない、白を見つめていた。如何して幾千幾万もの血を流していったというのに、此処まで汚れないでいられるのだろうか。真っ白なんかじゃ居られない筈なのに、恐ろしい位に白いままで。どんな手を使って汚してみても、彼は綺麗なまま。汚れた玉座でも、其れは変わらない。如何したら、何処までしたら男は汚れるのだろうか。白を、何色でも良い。ただ自分の手で染めたい。
思わず布を纏った手を伸ばせば、男の足に容赦無く踏み付けられた。しまったと気付くのは遅く、何度も何度も踏み付けられた。しかし冷めた目線で見つめられるのが堪らなかった。いずれ捻じ伏せて壊して、しまうまで。これもなかなかの快感だと男に見えないように笑った。







邪魔者はもういない。