パンッ―パンッ―



銃声の音が響き渡る。其れと同時に呻き声と目の前を舞う赤。この城に相応しい色を撒き散らしながら兵士達は壊れて、死んでいった。此れで暫くあのクソババアにも会わなくて済むと思うと心も軽くなくというものだ。あんなヒステリックなババアに付き合っている僕って何て可哀想なんでしょうね!こんなのを僕の所に呼ぶ限り、貴方の元に行く事なんて無いというのに。兵士なんて所詮役無しのカード。死んだ所でまた新しいのが変わりに入ってくるだけ。減ったって痛くも痒くも無い。全て殺してしまえば良い。

味方の兵士を殺した其の銃をいつも持ち歩く時計へと変える。もう此処に用は無い。元から何処にも用なんて無いんですけどね。終えなければならない仕事も本当は何一つありはしない。只、役目の中に入っていれば其れだけ、充分な。そんな。

倒れた兵士が目立つ。もう少ししたら別の兵士達がこいつを片付けてしまうからもう少し、其処で待っていれば良い。死んで、倒れたしまった所で不幸の塊の如く此処に倒れるのは止めて欲しいと思う、不愉快だ。しかしそれでも自分の手を汚してまで兵士を片付けてやろう等という程僕は優しく無かったし面倒臭いのでやったりしない。不衛生だし。汚い物をいつまでも見ているのも精神衛生上良く無いので早々と目を放す。振り返り緑の草を足で踏み付けながら数歩進めば、城の敷地内とは不似合いなテントが一つ。



「そろそろ貴方も行ったらどうです?此処に居たって時計塔には着きませんよ」


テントに向かって呼びかければ中から騒がしい音が聞こえ、その音と共にこの城の迷惑な迷子騎士が出てきた。正確には転がって。呆れたように一瞥し、溜息を吐く。苛々する顔だ。(けれど少しばかり、本当に笑ってしまいそうだった)よくもまあ此処まで次から次へと酷い状況を作り出せる物だ。如何したらここまで危険に合い続けられるのか不思議ではあるが深く追求する事も無い。そういうものだ、そう思って、終わる。此処はそういう国、なのだから。彼の事も無視して歩き出す。赤で彩られたこの城内は他の色が入り込む事は出来ない。だから僕もまた、この赤の中に紛れて消えてもう暫くは女王陛下から逃げよう。仕事をしたい気分なんて訪れる事は無いけれど、少なくとも今は仕事をする気分では無いのだから。





「うん。俺もそろそろ行こうと思ってた所なんだ。早く行かないとユリウスに怒られるしね」

「ええどうぞどうぞ、そして出来ればもう一生此処に戻って来ないで下さい」





其れは切実な願いだった。何度も何度も刺客を送りつけたり様々な策を練っているのにも関わらず彼は未だにくたばらない。不幸事に溢れている癖に腕っぷしが良いせいか、死なない。其れはもしかしたら決められている事だからなのかも知れないのだけれど何となくこの、エースという人物が何となく大嫌いなので早く死んでくれないかと願っている。願っているだけじゃなく実行しようともしているのだがこれがまた上手く行かず、其れがまたとても気に喰わない。苛々するし苛々するし、兎に角苛々する。彼も彼のその友人も、大嫌いだ。

言うだけ言ってしまえば返事も来ないので早々と立ち去ろうと足を進めた。さっさと何処かに行ってしまうに越した事は無い。此処に留まっていればまた、ヒステリックなババアの使いが来る事になるだろうし。後方でまた派手な音が聞こえているものの、また彼が何かやらかしたのだろうと見切りを付けて振り返らない。彼の近くにいると自分まで被害に合ってしまうから。











(其れなのに其れなのに、どうしてか痛い。時計が、痛い。)